あなたも、新規事業の会議で、こんな沈黙を経験したことはありませんか?
「何か新しいことをやろう」という号令はかかった。けれど、誰も口を開かない。数分の沈黙のあと、出てくるのは前にも聞いたことのあるアイデアばかり……。結局「今回は見送ろう」という結論で会議が終わり、次の月にまた同じ議題が上がる。そんな堂々巡りに、心当たりはないでしょうか。
そうなんです、思い当たるフシがある経営者は、決して少なくないでしょう。
アイデアが出ないのは、発想力のせいではないかもしれません
この沈黙が続くと、つい「うちのメンバーには発想力がないのかもしれない」「自分自身、もう新しい発想ができなくなったのかもしれない」と感じてしまいます。若手が入社したときは活発だった議論が、年数が経つにつれて静かになっていく。そんな変化を、寂しく感じたことはありませんか。
ですが、先に一つだけはっきりさせておきたいことがあります。これは、経営判断そのものをAIに任せましょう、という話ではありません。むしろ逆です。何を選び、何を決めるかは、最後まであなたが握ったままです。
その前提のうえで言えば、アイデアが出ない本当の原因は、発想力という個人の資質ではなく、**「候補を大量に、速く出せる仕組みを持っているかどうか」**にあるのではないでしょうか。
発想力がある経営者と、ない経営者がいるわけではありません。あるのは、候補を出す仕組みを持っている経営者と、持っていない経営者の違いだけです。この一点さえ整理できれば、あとの話はぐっとシンプルになります。
頭がこり固まっているだけで、発想そのものが枯れたわけではありません
なぜ、いつも同じようなアイデアしか出てこないのでしょうか。理由は、主に次の3つに整理できます。
・長年の経験や成功体験が、「うちの業界ではこうするものだ」という前提を作ってしまっている ・一人、あるいは同じメンバーだけでブレストを重ねるため、思考の範囲がいつも同じところをぐるぐる回ってしまう ・「現場仕事だから」「対人商売だから」と、業種そのものが発想の壁になっていると思い込んでしまう
そうです、これは能力の問題ではありません。経験を積むほど、その経験そのものが思考の枠になっていく。いわば、頭のこりのようなものだと考えてみてください。
こりは、体を動かさない人だけに起きるものではありません。むしろ、長く同じ姿勢で働き続けた人ほど、こりは深くなります。発想も同じで、長年その業界で結果を出してきた経営者ほど、「うちの業界ではこうするものだ」という前提が強く効いてしまうのです。**真面目に頑張ってきた証拠が、皮肉にも発想の壁になってしまう。**そう考えると、少し気が楽になりませんか。
AIが担うのは「発散」——業界の当たり前抜きで、選択肢を大量に出すこと
では、どうすればいいのでしょうか。それは、頭のこりをほぐす作業を、あなた一人で抱え込まないことです。
ここで登場するのが、AIです。AIは、いわば整体師のような役割を果たしてくれます。凝り固まった筋肉を、外側からほぐしてくれる存在です。業界の「当たり前」に染まっていないぶん、経営者一人では思いつかない切り口や組み合わせを、何十パターンでも提示してくれます。
しかも、人間のように疲れることも、遠慮することもありません。何十パターン目の案を求めても、突拍子もない案を出しても、気まずい空気になることはないのです。
たとえば、あるそば屋の経営者が、新しい業態のアイデアをAIに何十個も出させてみたとします。立ち食い形態、夜だけの一品料理店、地方発送に特化した業態……。そのすべてを採用する必要はありません。気に入った3つだけを、試作の候補として選べばよいのです。
大切なのは、業種は関係ないということです。AIが担うのは、その業界だけの「正解」を出すことではなく、あなたの頭の中になかった「切り口の数」を増やすことだからです。現場仕事でも、対人商売でも、この使い方は変わりません。
しかも、この作業にかかる時間は、会議室で何時間もブレストするより、はるかに短くて済みます。ゼロから声を出し合って案をひねり出す時間を、候補を出してもらう時間と、それを絞り込む時間に置き換えられるからです。「時間がない」という理由で新規事業の検討そのものを先送りしてきた経営者ほど、この置き換えの効果を感じやすいことでしょう。
絞り込み、決めるのは、最後まで経営者の仕事です
ここで、一つだけ注意しておきたいことがあります。整体師は、こりをほぐしてはくれますが、そのあと歩くのは本人です。AIも同じで、候補を大量に出すところまでは得意ですが、そこから何を選び、どう実行するかを決めるのは、最後まであなたの仕事です。
つまり、経営判断そのものをAIに委ねる、という話では一切ありません。最初にお伝えした通り、**AIが担うのは選択肢を広げる「発散」までで、絞り込みと意思決定という「収束」の主導権は、最後まで経営者にあります。**この線引きさえぶれなければ、AIに乗っ取られるような不安を抱く必要はどこにもありません。
「AIが出す案は、しょせん一般論ばかりでは」と感じるかもしれません。たしかに、その通りかもしれません。出てきたばかりの案は、いわばたたき台にすぎません。そこに、あなたが知っている自社の強みや現場の感覚を掛け合わせて磨く工程があってはじめて、使える案に育ちます。完成品ではなく、材料だと考えてみてください。材料が並んでいるだけの状態を見て「使えない」と判断するのは、少し早いかもしれません。
候補を絞り込むときは、「良いアイデアか」ではなく「試してみたいと思えるか」を基準にしてみてください。良さそうに見えるという理由だけで選んだ案は、たいてい実行段階で止まってしまいます。
また、AIには不得意なこともあります。事実と異なる情報を、もっともらしく出してしまうことがありますし、現場感覚や、実際に人と信頼関係を築いて実行する力は持っていません。出てきた案の裏付けが取れているかどうかは、必ずあなた自身の目で確かめる必要があります。
**得意なのはあくまで「発散」であって、事実確認も実行もできないのです。**万能の相談役ではなく、選択肢を広げてくれる道具だと捉えたうえで使えば、十分に役立ってくれることでしょう。
たとえば、金属加工業者が「端材は捨てるもの」という前提から抜け出せずにいたとします。AIに端材の使い道を何十パターンも出させ、そこから自社の設備で実現できそうな案を、経営者自身が絞り込む。これが、発散はAI、収束は経営者という役割分担です。書いてしまえば拍子抜けするほど単純ですが、これがすべてです。
終わりに
アイデアが出ないのは、あなたの発想力が枯れたからではありません。候補を大量に、速く出す仕組みを、まだ持っていなかっただけです。
発散はAI、収束はあなた——このたった一つの役割分担さえ持ち帰っていただければ、それで十分です。
「使い方がわからない」と感じる必要もありません。特別な操作や、凝ったプロンプトの技術は要らないのです。今、頭の中でぐるぐる回っている悩みを、そのまま言葉にしてAIに話しかけてみてください。それだけで、発散は始まります。
次の会議で「AI任せか」と聞かれたら、「発散はAIに手伝ってもらい、決めるのは自分たちです」と、そのまま答えてみてください。それだけで、社内の説明はきっと足りるはずです。
あなたなら、大丈夫です。凝りをほぐしたあとの一歩を踏み出せるのは、いつだって、あなた自身に違いありません。次の会議で誰かが沈黙したときこそ、その一言を試してみるちょうどいいタイミングかもしれません。
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