「AIに新規事業のアイデアを出してください、って聞いたら……なんか薄い答えばかりで」
あなたも、そんな経験はありませんか?
じつは、それはAIの問題ではありません。
聞き方の問題です。
「AIに答えを出してもらう」という使い方をしている限り、何を聞いても一般論しか返ってきません。どこかで聞いたことのあるサービス、誰でも言えそうな提案、実行するには大きすぎる構想……。
でも、中小企業がAIを新規事業に活用するとき、聞き方を変えるだけで話は大きく変わります。
新規事業は「他人ごと」ではなくなってきた
少し前まで、新規事業は「大企業がやるもの」「特別な人がやるもの」という感覚がありました。
でも今は、そうも言っていられない状況が生まれています。
原材料の高騰は続いている。一方で、人口減少にともなう売上の減少も避けられない。コストは上がるのに、売上が伸びない——この二重のプレッシャーを感じている経営者は、決して少なくないはずです。
そうなんです、新規事業参入は、もはや頭ごなしに「うちには関係ない」と言える話ではなくなってきているのです。
とはいえ、「じゃあ何をすればいい?」と考え込んでしまうのもわかります。そこで力を借りたいのが、AIです。
アルバムのナカバヤシが、にんにくを作っている
少し意外な話をさせてください。
「ナカバヤシ」という会社をご存じでしょうか。フォトアルバムや文具で知られる、あのナカバヤシです。
実はこの会社、兵庫県養父市の工場でにんにくを栽培しています。
製本工場がにんにく農家に——と聞くと、「え、なんで?」と思いますよね。そうなんです、最初は誰もが首をかしげる組み合わせです(笑)。
でも理由を聞けば、なるほどと膝を打ちます。
製本業には繁忙期(7〜9月・1〜3月)と閑散期(春先・秋頃)があります。長年、この波が激しく、工場稼働率の変動による雇用維持が課題でした。そこで2015年、閑散期の解決策として農業への参入を決意します。植え付けと収穫のピークが製本業の閑散期と重なるにんにくを選んだことで、雇用の安定化と製本技術の継承という二つの課題を同時に解決したのです。さらに2016年には、企業による農地取得の特例を活用して日本で初めて企業として農地を購入し、増え続けていた耕作放棄地をにんにく圃場として甦らせました。
(念のため補足しておくと、この取り組みはAIがアイデアを考え出したわけではありません。自社の課題と向き合ううちに生まれた、現場発の発想です)
ここで大切なのは、新規事業の種が「まったく遠い場所」にあったわけではないということです。「繁閑の波」という自社の課題を起点に、そこに合うものを探したら農業だった——という順番なのです。
新規事業とは、どこか遠くにあるものを探しに行くことではなく、自社が抱えている課題や使いきれていないリソースを別の形に組み替える作業に近いのかもしれません。
AIにはまず「自社の材料」を渡す
では、AIをどう使えばいいのか。
答えはシンプルです。AIに情報を渡すことです。
「いきなり答えを聞く」のではなく、「自社の現場をAIに見せる」のです。
渡すべき情報はこういうものです。
・業種、主な顧客、扱っている技術や設備 ・繁忙期と閑散期のギャップ、遊んでいる人材や設備 ・よく相談される内容、過去に喜ばれた仕事 ・抱えている課題(雇用、後継者、稼働率など) ・逆に、絶対にやりたくない方向
たとえばこう渡してみてください。
「当社は製造業です。繁忙期と閑散期の差が大きく、閑散期の雇用維持が課題です。この時期に稼働できる新規事業を考えてください。本業の延長線上の案だけでなく、まったく異なる業種への展開案も出してください」
こうすると、AIの答えは大きく変わります。「閑散期に合わせた農業や観光体験」「地域資源を活かした加工品づくり」「スキルを別業界に転用する受託サービス」など、自分では思いつかなかった方向が出てきます。
ここで大切なのは、突飛な案をすぐに否定しないことです。
「うちが農業なんて無理」と感じるかもしれません。でも、その案の奥にある問いは大切です。「自社が使いきれていないリソースを、誰かの役に立てられないか?」——この問いが、新規事業の入口になることがあるのです。
「何を売るか」より「誰の困りごとか」を先に考える
AIに新規事業を考えさせるとき、もう一つの大切なポイントがあります。
「何を売るか」から考えてはいけない、ということです。
お客様は商品を買うのではなく、困りごとを解決するために 買います。ですからAIには、まず困りごとを考えさせましょう。
「製造業の閑散期に対応できる農産物はどんなものがありますか」 「地域の農家や行政が抱えている課題と、製造業のリソースを結びつけてください」 「当社の技術や人材が、まったく別の業種で活かせる場面はどこですか」
こう聞くと、「耕作放棄地の活用」「地域との連携」「観光農園」「体験型ワークショップ」など、自分では思いつかなかった入口が出てきます。
もちろん、**出てきた案をそのまま実行してはいけません。法規制の確認、専門知識の習得、初期コストの検討は必須 です。でも 「入口を見つける」段階 では、AIは本当に頼りになります。
自社の強みと掛け合わせ、小さく試す
困りごとが見えてきたら、次は自社の強みとの掛け合わせです。
AIにこう聞いてみてください。
「この新規事業に、当社の既存の強みが使える部分はどこですか」 「本業から離れすぎて危険な部分と、つながりがある部分を分けてください」
ナカバヤシの例で言えば、「工場の管理体制」「作業の標準化」「品質を一定に保つ力」——これらは農業にも通じる強みです。業種は違っても、「仕事を仕組みにする力」は横展開できたのです。
ただし、「一社で全部やる」は無理をします。地域の農家、行政、専門家と連携することで、自社の弱い部分を補えます。突拍子もない案は、「誰と組めば形になるか」を考える材料でもあるのです。
そして、アイデアが出てきたら、最初から大きな計画にしすぎないことです。AIにはこう続けて聞いてみてください。
「このアイデアを1か月で試すなら、最初に何をすればよいですか」 「費用をほとんどかけずに検証する方法を教えてください」 「確認すべきリスクを一覧にしてください」
小さく始めて、手応えを確かめながら育てる。これが新規事業を潰さないコツです。
あえて、反対意見を出させる
最後に一つ、重要なことをお伝えします。
AIはこちらの考えを肯定しがちです。「このアイデアはどうですか」と聞くと、いい点をたくさん挙げてくれます。でも新規事業には、厳しい目線も必要です。
意識的に、こう聞いてみてください。
「このアイデアの弱点を厳しく指摘してください」 「失敗するとしたら、どこで失敗しますか」 「お客様がお金を払わない理由を挙げてください」
製造業の農業参入なら、「農業特有の専門知識が不足している」「天候リスクをコントロールできない」「収穫まで時間がかかり、すぐに売上にならない」「販路を作らなければ、作って終わりになる」——こういう指摘が出てきます。
突拍子もない案ほど、面白さと危うさが同時にあります。AIに反対意見を出させることで、「夢のある話」と「越えるべき壁」を分けて考えられます。
なお、AIはときに自信満々に誤った情報を返すこともあります。新規事業に関わる数字や法規制は、AIの回答をそのまま信用せず必ず一次情報で確認してください。AIの誤回答との向き合い方については、こちらのコラムでも詳しく解説しています。
AIで新規事業アイデアを出す5つのステップ(まとめ)
- 自社の「材料」をAIに渡す——業種・繁閑の波・余っているリソース・絶対やりたくない方向を伝える
- 「何を売るか」でなく「誰の困りごとか」から問う——商品より課題を先に考える
- 自社の強みと掛け合わせる——業種が違っても「仕事を仕組みにする力」は横展開できる
- 小さく試す方法をAIに整理させる——1か月・低コストで検証できる形から始める
- あえて反対意見を出させる——「夢のある話」と「越えるべき壁」を分けて考える
終わりに
AIは、新規事業の答えを出してくれるものではありません。
でも、「自分では気づかなかった入口」を見せてくれる、腕のいい壁打ち相手です。
アルバムのナカバヤシが、繁閑の波という自社課題を起点ににんにく農家になったように——新規事業の種は、遠くにあるのではなく、自社の中に眠っていることがあります。
原材料の高騰と売上の停滞が続く中で、「今のままでいいのか」と感じているなら、まずAIに自社の現場を見せるところから始めてみてください。
AIに情報を渡す。困りごとから考えさせる。強みと掛け合わせる。小さく試す方法を整理する。反対意見も出させる。
こうして往復しながら考えることで、ひとりでは行き詰まっていた思考が、思わぬ方向に動き出します。最後に決めるのは、あなたです。でも、アイデアを考える量と角度は、確実に広がるはずです。
きっと思わぬ扉が開くことでしょう。
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