「あの人しか値段を決められない」という危うさ
あなたの会社にも、いるのではないだろうか。
電話が入るたびに声をかけられ、見積もりが出るたびに確認を求められる人間が。社内で最も頼りにされながら、最も消耗している。
その人が病気になったら。異動になったら。疲弊して辞めてしまったら。
そのリスクを、経営者はどれだけ真剣に考えているだろうか。
価格決定という仕事の、知られざる複雑さ
「値段を決める」と聞けば、シンプルに聞こえる。
仕入れ値に利益を乗せるだけ——そう思っていないだろうか。だが実際は、そうではない。
熟練の価格決定者の頭の中は、いわば「検索できないWalking Wikipedia」だ。情報は確かにある。膨大に、精緻に蓄積されている。ただし、目次がない。索引がない。本人以外には開けない。
取引先ごとの関係性と歴史的経緯、過去に提示した金額の前例、同業他社の動向、数量・納期・支払い条件による変動、担当者同士の人間関係——これらすべてが、一人の人間の記憶の中にだけ存在している。
文書化されていない。マニュアルもない。引き継ぎ書を作ろうとしても、判断の根拠そのものが、その人の頭の中にしか存在しないからだ。
「熟練の技」と美化することもできる。だが経営の視点から見れば、これは明確なリスクである。
ある問いが、頭から離れなかった
あるとき、特定の業種に携わる方から話を聞く機会があった。
「うちも、取引先ごとの情報や過去のやりとりをちゃんとデータベースにまとめたいと思っているんですよ」
何気ない一言だった。しかしその言葉が、私の中で一つの問いに変わった。
「『検索できないWalking Wikipedia』を、検索できる形にしたら——何が変わるのか」
練習も兼ねて、実際に仕組みを作ってみることにした。
試しに「仕組み」を作ってみた
構想はシンプルだ。
社内で使っているチャットツールから、担当者が自然な言葉で問い合わせる。「この取引先に、この商品を、この数量で出す場合、いくらが妥当か」と。すると、過去の取引実績・関係性・値引き履歴・類似案件の前例を自動的に参照した上で、価格の目安と根拠が返ってくる。
担当者が頭の中でやっていた処理を、データが補助する形だ。
時間を使ったのは技術ではなく、設計の部分だった。「どんな情報をどういう形で持つべきか」——つまり、あの「検索できないWalking Wikipedia」の中身を、どう整理して外に出すか、だ。
動かして気づいたこと
動いた瞬間、率直にそう思った。
「これは、価格決定だけの話ではない」と。
バラバラだったときには気づかなかったパターンが浮かび上がってくる。「この取引先には、年度末にいつも無理を聞いていたのか」「この商品の値引き率は、じわじわ上がっていたのか」——そういった事実が、データとして可視化される。
そしてもう一つ、気づいたことがある。
新しい担当者が「この取引先には、過去にどんな経緯があったか」をすぐに確認できる。ベテランが不在でも、意思決定の根拠にアクセスできる。「あの人しかわからない」という状況が、少しずつ解消されていく。
ツールが答えを出すのではない。判断するための素材を、素早く整えてくれる。そこに価値がある。最終的な判断は、いつも人間が下す。
個人事業主のAIコンサルタントだからこそ、できること
「こういう仕組みは、大きなシステム会社に頼むしかない」
そう思っている経営者は、まだ多い。だが今は違う。
AIツールの進化によって、個人事業主レベルのAIコンサルタントでも、こうした仕組みを実装できる時代になった。むしろ、規模が小さいからこそできることがある。「どんな情報が必要か」「担当者はどんな問いを立てているか」「どこに一番負荷がかかっているか」——そこを丁寧に聞き、整理し、形にする。提案して終わりにしない。一緒に作り、動かすところまでやる。いや、使えるところまでやる。修正したいところが出て来る。なので伴走し続ける。
価格決定の属人化は、多くの卸売業者が抱えながら、表に出にくい課題だ。「うちの会社にも、あの『検索できないWalking Wikipedia』がいるな」と思った方は、まず話を聞かせてほしい。
「検索できないWalking Wikipedia」を仕組み化するポイント(まとめ)
- 属人化は「熟練の技」ではなく経営リスク——その人が休んだ・辞めた瞬間に、意思決定が止まる構造を見直す必要がある
- 価格決定の中身を整理することが先——「どんな情報をどういう形で持つか」の設計こそが時間のかかる本質的な作業
- ツールが答えを出すのではない——判断するための素材を素早く整える。最終判断は常に人間が下す
- 可視化で初めて見えるパターンがある——バラバラだったデータが揃うと、値引き率の推移や取引先の傾向が浮かび上がる
- 小さく始めて伴走し続ける——大きなシステム会社に頼まなくても、今のAIツールで十分に実装できる
実際に、備後エリアの卸売業者で過去の案件情報をSlackから聞ける社内AIを構築した例を、尾道・福山のAI導入支援のページで紹介しています。
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